to the north

根室、落石岬の朝。

ディレクターの福田春美が北海道の魅力を再発見する to the north。その中でも今回どうしても紹介したいと語るのが道東エリア。北海道在住者でも足を運んだことのない人も多くいるという東の果て。3軒の店とそこで暮らす人々を訪ねました。

ウルリー牧場の渡辺北斗さんがご家族と生活する建物。一般住宅なので無断での立ち入りはご遠慮下さい。

ウルリー牧場の渡辺北斗さんがご家族と生活する建物。一般住宅のため無断での立ち入りはできない。

8月に訪れた道東は、真夏だというのにひんやりと乾いた空気が湿気の少ない北海道らしい気候だった。最初に向かったのは知床半島と根室半島のあいだに位置する別海町。釧路空港から車を走らせ2時間ほどすると、車窓から大きなサイロや草を食む牛たちがいたるところで見えてきた。東京23区を合わせた面積の2倍以上ある広い町、生乳の生産量が日本一を誇るこの町は人口よりも牛の数の方が多いというのもうなずける。

奥山夫妻が別海町で営む〈oncafe〉の店内。

奥山夫妻が別海町で営む〈oncafe〉の店内。

別海町のカルチャー発信地、
oncafeのレモンバターケーキ。

福田がこの町に惹かれたのは、アーティストの大竹伸朗さんが学生時代に短期間滞在したことのあるというウルリー牧場があること、そして、〈oncafe〉という奥山夫妻が営むカフェがあるからだった。父親の後を継いでCDショップを営む一浩さんと、軽食とスイーツを担当するしのぶさんの夫妻だ。

「素朴な味だからこそ、おいしさが際立つ」 と福田が絶賛するのが、しのぶさんが作るレモンバターケーキ。スタイリッシュというよりは、どこか懐かしい味。口の中で広がるのは、甘酸っぱいレモンの酸味とバターの優しい味だ。

別海町は若者が少ない。けれども2人がカフェやCD、プロダクトを扱い、カルチャー発信的な店を続けるのは、ここで暮らす人々の生活を豊かにしたいという思いから。

「田舎だと単調な生活になりがちですが、文化的な魅力を取り入れることで、外からも人が集まるコミュニケーションスペースになったらいいなと」。

そう話すのは一浩さん。飲食とCDの販売スペースをゆるやかに分けている壁は、あえて稼働式にして、ライブやトークイベントをできるようにした。実際にイベントも開催していて、東京などの遠方からも人が集まるのだとか。一方で、そういった発信によって、住民の暮らしの意識も高めていきたいと考える。

店内には道内外から集めたプロダクトも展開する。2人が使いたいもの、使ってよかったものをセレクト。

店内には道内外から集めたプロダクトも展開する。2人が使いたいもの、使ってよかったものをセレクト。

しのぶさん曰く「この町に住んでいる良さって、みんながゆるくバランスよく繋がってることなんです。ここで生活してることを共有できるというか。だから店としてある一定の世界観を作ることで、自然と取り入れてくれることも多くて」。厳しい自然環境をシェアしているからこそ生まれる連帯感。とはいえ外部から入りにくいこともない。

〈oncafe〉は、町と外の人々をゆるやかに繋げる、別海町のハブのようなスポットになっている。

地元産の食を提供する、
VOSTOK laboのクラッカー。

別海町に別れを告げて、次に向かったのは根室市。「日出ずる市」と言われる同市は、離島を除く北海道本島の最東端にあたるエリア。曇天と雨が交互にやってくる不安定な天気の中、目に飛び込んできたのはロシア語が表記された交通標識。目と鼻の先は外国なのだと改めて認識する。そんな異国情緒溢れる根室市で福田が初めて訪れた時に印象的だったというカフェが〈VOSTOK labo〉だ。

根室駅横の観光インフォメーションセンターとバスターミナルの中、小さな扉の向こうにその店はあった。迎えてくれたのはカフェを運営する中村美也子さんと野﨑敬子さん。聞けば2人とも昨年まで東京に暮らしていたという。この町の出身でも親戚がいるわけでもない、そんな女性2人がなぜ根室に?

「知り合いの移住をきっかけにこの地を訪れ、豊かな自然環境に魅了されました」。そう話すのは中村さん。その後、根室市文化推進協会のメンバーとなり、2人は移住を決意。〈VOSTOK labo〉を立ち上げ、地元産の食を中心とした研究や提案、カフェの運営を担っている。

今回to the northの商品の中で、福田が特におすすめしたいと太鼓判を押していたのがクラッカーだ。味はポルチーニやオリーブの他、トマト、塩こんぶなど、この周辺で採れる野菜や海産物を使った全7種類。東京でも人気が高い。

「根室の素材を一番に意識しています。それでも難しければなるべく道産のものを。根室にあるチーズ工房チカプさんからチーズを使ったお菓子製作のお話をいただいて、チーズに合うクラッカーとして提案したら、意外にも好評でした」と野﨑さん。今後もお菓子を通して根室の味覚を紹介していきたいと話す。

そして2人はこう続ける。「こんな恵まれた環境で、一緒に仕事ができる機会に感謝しているんです。この地でしっかりとした成果が出せるまで、私たちの研究は続きます」。
ちなみにVOSTOKとはロシア語で「東」という意味だそうだ。

ファッションや暮らしにまつわる、
セレクトショップguild Nemuro。

この〈VOSTOK labo〉とコラボレーションして、イベントでお菓子づくりを依頼するなど、仲間と一緒に根室の魅力を広く伝えたいと語るのが同市内にある〈guild Nemuro〉のオーナー中島孝介さん。ファッションや暮らしにまつわる新旧のプロダクトを中心に扱う店、福田が根室にきたら必ず寄りたいという場所でもある。2013年に店をオープンした中島さんもまた、東京から根室に遊びに来た際に移住を決めた一人だ。

「東京では生活をするのにも息苦しい感じがありまして、どこかに移動したいと漠然と考えていました。北海道か長野か福岡という3つの候補に絞っていた時に、知り合いに誘われ、初めて北海道を回ったのがきっかけでした」

目にしたのは、日本とは思えないような圧倒的な大自然。その光景に心を揺さぶられ、なんと滞在1日目にして移住を決めてしまったという。ここでは、何よりも自分のペースで生活できるのがいいと話す中島さん。店に置くものもすべて自分基準で選ぶことができる。買い付けは主にヨーロッパ。オランダ、ベルギーフランスを中心に、年に3回ほど。生活必需品ではなく、どちらかというと嗜好品に重きを置きたいという。

「海外のように日常生活にアートを取り入れてほしいんです。日本では、壁に絵や写真を飾る風習ってあまりないですよね。もっと暮らしを楽しむというか、いいものがわかるような目を養う、そういう機会を作りたい」

今は地元の人たちにその良さを理解してもらうことが最優先。曰く「生活のクオリティを上げるためのヒントはたくさんあります」。確かに、百聞は一見に如かず。それは中島さんの店に行けばよくわかる。

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別海から根室までは車で約1時間。福田が是非とも足を運んでほしいという道東の3軒は、生活を豊かにしたいと考える人々が営む、真摯で温かい店だ。東の果てを訪れる人は、大自然がすぐそばにある環境も相まって、五感がいつもより研ぎ澄まされるにちがいない。そして、そこではおおらかで優しい、魅力的な人たちやモノと触れ合うことができるはずだ。


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