to the north

北海道らしさってなんだろう?

道産子マインドのルーツを探す旅

岡本仁

札幌へ行く度に、狸小路8丁目にある『グリ』という店に必ず寄る。1回では飽き足らず滞在中に数回訪れたこともある。インターネットの情報では「中華」というくくりになっているようだ。たしかにメニューには焼売や春巻がある。でも、だからといって中華と決めつけてしまってはあまりにもったいない。自由な発想でつくられたおいしく美しく軽やかな料理の数々を、お酒とともにいただく店だと思う。ぼくの北海道への旅は東京から『グリ』に予約の電話をするところから始まる。航空券やホテルを手配するのは二の次なのだ。

先月、いつものように『グリ』のいちばんキッチンに近い席について自然派ワインをお願いしようとしたら、「昨日、ケンさんが持ってきてくれた北海道のワインを飲みませんか?」と言われたので「もちろん」と答えた。出てきたのは『Kondo Vineyard』の「tap-kop konkon 2014」。数日前に東川町であったポップアップ・レストランで出てきた北海道産のワインの中でも、もっとも印象に残ったものだったからビックリした。8種類の品種で造られた白ということだったが、色はどう見てもロゼと言ったほうがいいほどで、味に関してもまるでロゼだった。

特に印象に残っていたのはそのおいしさだけでなく、それが栗沢町で造られたものだったという事実だ。以前も書いたけれど、ぼくは夕張市で生まれて高校を卒業するまでそこに住んでいた。栗沢町は、当時は岩見沢市とは合併していなかったはずである。栗沢町周辺の由仁町や栗山町や長沼町、あるいは三笠市、そして岩見沢市は、子供の頃から馴染みのある場所で、いわゆる南空知という地域としてくくられる。ぼくの子供時代の記憶からは、将来そこで葡萄を育てワインを造る人たちが現れるなどと想像できるような場所ではなかった。

調べてみると『Kondo Vineyard』は基本的に化学合成農薬、肥料、除草剤などを使わないようにして育てる葡萄農家で、醸造は施設を借りて行っているようだった。2012年に栗沢町に『10R(とあーる)ワイナリー』が出来てからは、すべての葡萄をそこで醸造している。今度は『10R 』について調べてみる。『10R』はカスタムクラッシュワイナリー=受託醸造所で、北海道産の葡萄だけを原料にした高品質のワイン造りを目指していると書いてあった。そしてワイン産地としての北海道の潜在能力を最大限に引き出すためにこの受託醸造所を始めたのはアメリカ出身の醸造家、ブルース・ガットラブという人物だった。またしても、北海道とアメリカが繋がり、ぼくは静かな興奮をおぼえた。いつかこのアメリカ人醸造家に会ってみたいと思う。

2年前だったか『ゴーシェ』というビストロで「北海道のワインもありますが、そちらを飲まれますか?」と訊かれた時に、ぼくの頭の中に浮かんだのは「十勝ワイン」だった。厳しい気候によって冷害にみまわれ、農作物に大きな被害が出ることが多い十勝地方で、自生する山葡萄に着目した池田町の丸谷金保町長の発案から1963年に始まった、自治体経営のワイン醸造。醸造所はワイン城と呼ばれ、いまや観光名所になっている。札幌に住んでいた1980年前後、市内にあった『レストラン十勝』という店で、十勝ワインを飲みながらステーキを食べたことが何度かあったが、それが北海道のワインに関するぼくの知識と経験のすべてだった。この夜、それがようやくアップデートされた。

フランスの自然派ワインがたくさんあると聞いて来たビストロだから、北海道ワインも自然派に違いないと思い、どこのものか尋ねたら「岩見沢です」と、考えもしない地名が返ってくる。残念ながらそのワインの名前はまったく記憶していないけれど、「十勝ワイン」しか知らなかったぼくには鮮烈な自然派らしい味だった。お店の女性が「自然派がお好きだったら、二番通り酒店というお店に行かれるといいですよ」と教えてくれた。ただ、荷物が増えるのがイヤだったので、酒屋には寄らずに東京へ戻った。

それ以降、たまたま機会に恵まれる幸運が続き、ぼくの北海道のワインに関する経験は少しずつ増えている。去年は料理人の友人たちが東川町でポップアップレストランをやるというので、そのための食材探しの旅についていった。ぼくらは余市で合流する約束をした。彼らは函館から北上するつもりらしく、七飯のチーズ農場と函館のワイナリーを見学してくるとのことだったが、函館でもワインを造っているんだと意外に思った。余市で合流したのはワイナリー見学のため。余市も、ぼくにはウィスキーのイメージしかないので驚きだ。さらに見学後に「閉店時間に間に合えばいいけれど」と、車で向かった先が、なんと『二番通り酒店』だった。ぼくは付き添いみたいなものだから、後ろのほうでみんなの様子をうかがっていただけだったけれど、店主の小林さんは想像していたよりもずうっと若い人で、Tシャツの袖をまくりあげてフランスの自然派ワインについて語るその姿は、まさしく熱血漢という感じだし、友人たちはお店に置いてあるワインのボトルを見たりしながら、いちいち歓声を上げていた。

その日の夜は『グリ』に行き食事をした。友人が寄ってきた函館の『農楽蔵』や、一緒に余市で見学してきたばかりの『ドメーヌ・タカヒコ』のワインも用意されていた。『グリ』で薦められるフランスの自然派ワインがとても印象的だとずうっと感じていたのだが、それらも『二番通り酒店』に卸してもらっているということを、この時にはじめて知った。『グリ』のご夫妻は小林さんのことを「ケンさん」と呼んでいた。ぼくが密かに小林さんのことを「ケンコバ」と(もちろんご本人にはそういうふうに呼びかけないけれど)、そして彼が扱う自然派ワインを「小林系」と呼ぶようになったのも、この時からだ。

いまや、札幌だけでなく、東京や鎌倉や大阪や西宮など、小林系のワインが飲める店は少しずつ増えている。以前は日本酒の蔵元で修行をしていたらしいという話を聞いたこともある。盛岡で自然派ワインを飲もうと思ってたまたま入った店でのことだった。興味津々。こうなったらご本人にゆっくりと話を聞かなくてはならないだろう。ということで、小林さんにインタビューを申し込んだ。

北海道らしさってなんだろう? 道産子マインドのルーツを探す旅 岡本仁

岡本 仁

1954年、北海道夕張市生まれ。大学卒業後テレビ局勤務を経てマガジンハウスに入社。『ブルータス』『リラックス』『クウネル』などの編集に携わった後に退社。2009年よりランドスケーププロダクツにてプランニングや編集を担当。著書に『今日の買い物』『続・今日の買い物』(ともにプチグラパブリッシング刊、岡本敬子との共著)、『ぼくの鹿児島案内』『続・ぼくの鹿児島案内』『ぼくの香川案内』(すべてランドスケーププロダクツ刊)、『果てしのない本の話』(本の雑誌社刊)、『ぼくらの岡山案内』(ランドスケーププロダクツ刊、坂口修一郎との共著)などがある。雑誌『暮しの手帖」『& Premium』でエッセイを連載中。

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